今までに出せられるはずもなかった声量。


合わなかった音程。

自分の思い描いた歌がそこにはあった。




俺は目を閉じて想像してみた。


目標としているスタジオに立ち、明るいスポットライトの下で始まる俺の音楽。


見に来ている観客たちの熱い視線が俺に注目する。




緊張以上に俺の心には好奇心が湧いてきた。


これだ。

これが俺の歌いたかった歌だ。


なんて気持ちがいいのだろう。


歌を歌う事がこんなにも楽しかったなんて。





元々は音痴のせいで終わった初恋も、今の俺が過去に戻ればなかった事になるのだろうか。


そうすればさやかも死なずに済んだのかもしれない。

いや、殺さずに済んだのかもしれない。






そして・・・。
立花の事も傷つける事なく、普通に過ごさせていられたのかもしれない。





「お前・・・」



一番が全て終わり、俺もふと現実に戻る。




「圭介!?どうしてここに・・・」


目の前には圭介が立っている。

圭介は少し言いにくそうにこう言った。


「お前がどこまで本気か・・・見に来たんだよ」