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「どうして返信くれないんだろ・・・もう!!」


「そんな怒ったって翔太から返信くるわけじゃないんだからよ。落ち着けって」



今日の朝。

あたしや小沢君のメールに対して、橘君は何も応答してはくれなかった。

彼が無断で学校を休むなんてなかったから。




学校が終わってから病院に向かう間も電話を何回かしてみたけど、電源が切られている可能性が高い。



「ねぇ、小沢君はなんでそんな平静でいられるの!?」


「慌てたってしょうがねぇからだよ。てか、桔梗の前でその話やめようぜ」


「あ・・・。桔梗ごめん」


桔梗は寂しそうに笑って、大丈夫と口パクで言ってくれた。

それからすぐに退院するために、病室に置いてあった私物を片づけ始めた。




「あ、あたしちょっと探してくる!!」

少しだけ気まずくなってあたしはそう言った。


「ちょっ待てよ!!」


小沢君の言葉を無視してあたしは走り出す。

もしかしたら、橘君はいつものカラオケ店にいるかもしれない。


そう思ったのは確かで、確認したいとも思ったのは本当。
でもそれはただこの場から逃げる為の口実でもあった。


あと、もう一つだけ理由があるとするならば小沢君と桔梗の間にいたくなかった。



・・・小沢君と桔梗はもう付き合っている。

そんなことはもうとっくに分かっているのに、諦めきれない。


勝手に二人の空気に触れたくなくて逃げる事もしばしばある。




それを思わず橘君に打ち明けて、ひょんなことから歌の練習を付き合うようになったあたし。


歌が完成するその日まで一緒に頑張ろうと思っていたのに、橘君はいきなり音信不通になってしまった。


たった一日音信不通になっただけで、そう言って誰かに笑われるかもしれないけど・・・。

それでも一日でも練習を無駄にはしたくないと思っていたのは他でもない、橘君だったはず。