あの海の日以来、

私たちの関係になんか変化があったかと言えば……

まぁ、たぶん別にない。


「マッキー、だめぇ?」


私の机に肘をついて手を合わせ、

前の席から身を乗り出してジーッと私を見つめてくる藤のつぶらな瞳に、

私は冷たく言い放った。


「ダメに決まってんでしょ。宿題は宿題!!

家でやって来るから“宿題”っていうのよ!!

今日じゅうにやってもらうからね」


白紙のまま提出しようとした英語のプリントを、

藤の手に押しつけるように投げ返すと、

藤はたまにはいいじゃーんと口をとがらせる。


「どこが“たま”だよ! これでサボったの何回目?」

「今日だけは見逃して! 次からはやってくるからさ」

「あんた、また補習受けたいの? 次はかばわないからね、私」


思い切り突き放すと、オニのように冷たいなマッキー、

と藤はうれしそうに笑った。


「笑いごとじゃないからっ」

「わかった! じゃあ放課後、やるよ。やります」


だから終わるまでつきあってよ、と藤が甘えてくる。

ここぞとばかりに、黒い瞳がキラキラ明るく輝いている。

私はため息をついて、渋々うなずいた。

さすがマッキー、と藤は屈託なく笑う。


その笑顔を見ながら、私はしみじみと考えた。

確かに、私たちの関係は大きく変化したりはしていない。

それでもなにか変わったところがあるとすれば……

私は藤への思いを自分の内側だけで処理できるようになり、

藤は、私に甘えるようになった。