「それで、連れて来ちまったと」

「迷惑……ですね」

「まあ、仕方ないね。今は戦闘訓練中だから気を付けな」

「……うおっ!」




施設に着くと、そこでは子供たちが剣やら槍やらを持って戦っているところだった。なかには弓を扱っているものもいて、その流れた矢がギルシードのそばを掠める。

ジェムニは怒ったような困ったような嬉しいような……よくわからない表情でシーナを見ていた。要するに、ありがた迷惑な状況なのだろう。

部外者には感心しないが、シーナに会えて嬉しい、ということだ。



「本当に迷惑だねぇ……」

「すみません……」

「いや、シーナが謝ることじゃない。ま、退屈だろうから腕試しでもするかい?あんたたちも強いんだろう?」

「あまり豪語できませんが、それなりに技術はあるつもりです」

「こんなちびっ子に負けるかよ!」

「俺は見守るだけにしておく」

「んじゃ決まりだ。装飾品と備品は取るんだよ。持って良いのは武器だけだ」

「ちょうど退屈だったところだぜ!」



ジェムニの隣にシーナとレンは避け、ロイとギルシードはその横で無駄なものを地面に置く。

その様子を、子供たちは手を止め興味津々といった感じで観察していた。


準備が整ったところで2人は前に出た。




「制限時間は5分。手加減無用だよ」

「良いのか?」

「殺り合う代わりに制限時間さ。怠慢な訓練したって相手は待っちゃくれない。それはあんたらがよくわかってるだろうさ」

「そうですね」

「相手は……デゥークとキリト。2人がこの中では妥当だろうよ。一対一でも二対二でもいい。では……始め!」



ジェムニの合図に子供たちが歓声をあげる。仲間が負けて欲しいとは誰も思っていない。

それはシーナも同感で、口に手をあてて2人に声援を送っていた。



「俺はデゥークです」

「僕はキリト」

「僕はロイ」

「俺はギルシードだ」



律儀にも子供たちが名乗ったため、2人も習う。しかし、そんな温(のどか)な雰囲気は一瞬で消し飛んだ。

デゥークとキリトは剣を構え、ギルシードはダガーを片手に持つ。ロイは銃は使わず借りた剣を持っていた。それぞれは一呼吸置いた後、だっと駆け出した。

細身のデゥークに小柄なキリト。青年ではあるが子供ながらに動きは素早く、ギルシードもロイも動きを窺っていた。

デゥークはロイに、キリトはギルシードに狙いを定めたようで、それぞれの武器がぶつかり合う音が声援に負けず劣らず響き渡る。


最初、ロイは慣れない剣で圧されていたがだんだんとコツを掴み始めたのか巻き返してきた。




「ロイさんはもともと何を使っているんですか?」



戦闘中にも関わらずデゥークがロイに尋ねた。ロイはぶっきらぼうながらも物腰やわらかに答える。



「以前は専らナイフでしたが、今は銃ですね」



銃、と言ったとたん、鍔(つば)迫り合いをしていたデゥークがパッと間合いを取る。

しかし、その顔もパッと晴れやかになった。どうやら警戒して間合いを取ったわけではないらしい。



「銃!……後で見せてくれませんか?憧れていたんです!」

「はい、いいですよ。でも今は持っていませんので」

「よし……あと数分ですから、行きますよ!」

「ええ」



デゥークは剣を構え直した。ロイは両手で持っていた剣を片手に持ちかえる。

デゥークが足を踏み込みあと一歩のところでロイは後ろに飛び、空いていた片手を懐に伸ばすとヒュンッと何かを横に振った。

その何かは宙を飛び一直線にデゥークの首へと飛んでいく。デゥークは一瞬拍子抜けした表情をしたが、間一髪のところでかわした。

それを見てロイは満足そうに微笑む。



「さすがですね。動体視力と反射神経はぴかいちだと」

「……くっ。案外腹黒いんですね。ナイフ使うなんて」

「専らナイフでしたから。けっこう便利なんですよ」

「油断してました」

「何喋ってんだい。あと1分だよ!」



ジェムニの言葉で目の色が変わった。闘志を燃やしたような鋭い光がお互いを射抜く。

そして、どちらからともなく突っ込んで行った!