俺は静かに目を開けた。そのとき、一筋の涙が頬を流れていった。

自分でも何に対しての涙なのかはわからない。自分の悲惨な過去に対してなのか、親の不幸に対してなのか、それとも自分が何もやろうとせず無心な人形と化していたからか。



俺は困惑と怒りと焦燥の渦の中でただぼーっと天井を見上げていた。

自分がちっぽけな存在にしか感じられない。何もかもを放棄したい気分だ。例え崖っぷちに立たされたとしても、今なら何も感じないかもしれない。

明日が来ても、どうせ何も変わらない。何も起こらない。


大きな脱力感が俺を襲う。


今後生きていて、意味はあるのか。目標や目的があるわけでもない。せめて、使命や責務さえあれば……心の糧にできるのに。


このままずっと、夜のままでいい……夜のままがいい……朝なんて来なければいい。

朝が来たとしても、俺はすることがない。やるべきことがない。帰りたい場所も、ない……




『それなら、俺のものになれ』


俺のもの……?


『そうだ。俺のものになれば、そんな悩みは必要なくなる。悩む必要もなくなる』


それは、楽になれるということか?


『まあ、そうだな。おまえは俺にすべてを委ねればいいだけだ。おまえはそれを見てるだけ。なんなら、寝ていてもいいぞ。そうすれば永遠の夜を手に入れられる。朝なんてものは二度とやっては来ない』


すべてを放棄すれば、楽になれる……


『さあ、選べ。自堕落な人生を我慢しながら歩むか、いっそのことそれを放棄しても構わない己の心に従うか』


それなら、答えはひとつだ……





「俺は、寝たい……」

『ククク……なら、決まりだ。おまえの身体、いただくぞ』




怪しい笑いを含んだその声はだんだんと遠退き、俺はやがてゆっくりと目を閉じた。永遠の闇の中に沈んで、現実から逃げるように、背けながら────