「なぜここに来た」



目の前にはマークと他、神類の2人。しかし、俺の目にはただの魔物にしか見えない。やはり味方だとはわかっていても、醜い姿を直視できないでいる。

先ほどまで『奴等』側の魔物が迫って来ていたが、『我ら』の力によってなんとか追い返した。


……結界が使えるなんて初耳だぞ。




『なぜ?なんとなくだ』

「答えになっていない」

『俺たちに聞かれても困る。奴等の動きが激しくなったのを察知して、なんとなく先回りしたらおまえたちがいたんだ。なあ?』



マークが仲間にふると、隣で首を動かすマーズとサターン……まあ、俺にはどちらがどちらなのかわからないが。

確か、マーズがギルシードのでサターンがロイの神類だった気がする。


ロイもギルシードもそれぞれの相手と対話しているようだ。

シーナは最初おろおろと俺たちを見ていたが、自分の神類と繋がりがあったマークが気になるのか、俺の隣に立って彼を凝視している。




「はじめまして、マークさん。シーナです」

『なんか話しかけてきたぞ』

「挨拶してるだけだろ」

『俺の言葉がわかるわけないだろうに、変なやつだな』

「……シーナ、マークが気味悪がってる」

「あれ、そうなんですか」



マークはあからさまに嫌な顔をして言ってきた。少し顔を仰け反らせている。



『気味悪がってなんかいない。ただ……ヴィーナスと重なって見えて可笑しくなりそうなんだ』

「シーナ、きみがヴィーナスと似すぎていてマークは少し居心地が悪いそうだ。あまり話しかけない方がいい」

「す、すみません……もうしません」



シーナは申し訳なさそうに謝ると、少し離れた。マークはほっとした表情になる。

好きだった人の顔が目の前にあれば、思い出したくなくても昔へと思考が飛んでしまう。それをマークは恐れているのだ。


……俺にはまだ経験したくないことでもある。



『おまえたち、これからどうするんだ』

「俺たちは一度ブランチの本部に戻る。今後の予定はまだ決まっていない」

『そうか……なら、教えるべきか……』

「なんだ?」

『実はな……さっきのでわかったと思うが、奴等はとうとう動き始めた。あの行動は俺たちにも意味不明だがな』

「ああ……」



さっきの突撃は確かに意味不明だが、『奴等』が何か仕掛けて来ようとしたのは事実だ。デカル教の信者も増えているし、魔物による被害も増えている。

日にちが経つにつれ、その範囲は拡大しているのも否めない。本部の対応も気を付けなければならないだろうな。



『そこで、だ。俺たちは今作戦を立てている。それにはおまえたちの力が必要だ』

「俺たちの?」

『ああ。気に食わないが、つい先日フリードが接触してきた』



フリード……この世界の神か。神が考えていることが俺たちにわかるわけはない。だが、神に逆らうような真似は控えた方がいいだろう。



『それで……ティーナの所在を聞かれた。おまえと一緒に行動をしていたはずだよな』

「……それが、な」

『どこにいる』

「……俺の影と行動を共にしている。目的はわからんが」

『なんだと!あのネズミめ……何を企んでいる……』



マークは眉間にしわを寄せた。正直俺の顔でそんなことはしてほしくないが、仕方ない。我慢するとしよう。

それにしても、なぜ今さらティーナを気にするんだ?



『あいつに新しい任務を授けたい……とか言われてな。俺たちにそんなこと言われても対応のしようがないのに……神はまったくわからんやつだ』

「神の思考が駄々漏れでも困るがな」

『……まあ、いい。忘れてくれ。

俺たちの作戦なんだが……フリードと協力して、神類を封印することにした』

「封印……そんなことができるのか」



……いや、待てよ。今神類と言ったか?ということは……『奴等』も『我ら』もということになる……

そんなことをすれば、もうこの世界から魔物の脅威はなくなるがマークたちも消えるということだ。


……俺は、マークの話に不快感を持った。



「きみたちも……封印されるのか?」

『いや……それはどうかな』

「なに?」

『俺たちは少数派だ。力尽きて消滅する可能性もある。それに害はない。フリードの計らいでもとの世界に戻ることを祈るだけなんだが……このまま消滅しても悔いはない。それは皆の同意のもとでの意見だ』

「消滅……」

『消えて滅びる。俺たちはこの世界では異物だ。例え生き延びてももとの世界に戻れないのであれば、フリードによって消されるだろう』



……それを、おまえたちは受け止めているというのか。それが本望なのか?俺だったら反対だな。勝手に消されてたまるか。


俺はさっきまで『奴等』が迫って来ていた方向を向いた。そこにはもう何もいないが気味の悪い気配の残り香が漂っているように感じる。

殺気だっていたのは間違いない。



『俺たちはそろそろ撤退する。ここには用はない』



他の神類を見やってから俺に視線を戻すとマークが言った。確かにここにいる理由はなくなったな。



『また後日会おう。そのときに計画の詳しい内容を教えよう』

「わかった。俺たちはどこにいればいい?」

『どこでもいい。だが、あまり無茶なところは控えてくれよ。例えば……あのトンネルの中とかな。あそこは近寄りたくないところだ。ゲルベルの森は論外だぞ』

「なら、本部かその周辺の街にいると思う。なるべく夜にしてくれないか?昼間に人通りの多いところで、いきなり俺たちがいなくなるのを目撃されるのは避けたい」

『よし、では俺たちは帰る。仲間が帰りを首を長くして待っているはずだからな』



マークは指をパチンと鳴らすと、スッ……と消えて行った。見ると他の2人も消えたようだった。

ギルシードとロイが寄って来る。



「あいつらもたいへんだな。仲間のもとから離れて心配そうだった」

「ですね。あの3人は彼らにとっては要なのでしょう」

「あのー……」



口々に感想を言っていると、後ろから控えめな呼び声が聞こえた。

くるりと振り向くと、シーナがおずおずと近づいて来る。



「それで、何と言っていたんですか?」

「「「……」」」



会話ができないというのは、実に不便なことだとこのときほど思ったことはない。