「あ、川がありますよあんなところに」

「ホントだ。トゥルークの川っぽくね?」

「そうかもしれません。川は蛇行してますからね」




歩いていると、ふいに耳に届いた水の音。遠くの方に川が流れているのが見えた。しかし、今はちょうど昼時なため蜃気楼のようにゆらゆらと頼りなく揺れている。

川は左に逸れてトゥルークへと流れている。




「なんで砂漠に川が流れてるんだ?」

「知りたいですか?ちょっと専門的になってギルさんには難しいかもしれませんけど」

「……バカにしてんのか?」

「してます」

「てめぇ……」



恨めしそうに拳を握りしめた男はさておき、ロイはこのようなときのためにもうひとつ持っていた眼鏡のブリッジを指で上げる。

眼鏡は二本持つ主義らしい。




「本部を出てトンネルを抜けたとき、レンさんが雨が降りそうだって言ってましたよね」

「……そーいやそうだな」

「本部の方は比較的雨が多いらしいです。そして本部の方が土地の標高が高い。そのため降り注いだ雨水がやがて川になりトゥルークへと流れて行く……ということです」

「それのどこが難しいんだ?」

「誰かさんのために易しく説明したんです」

「てめぇ……」



恨めしそうに睨み付ける男はさておき、レンが珍しく愚痴を溢した。



「腹減った……」

「ずっと歩きっ放しですもんね」

「でも休めるようなところもありませんねぇ」




シーナはきょろきょろと周りを見回すが植物も何もない。遥か遠方に木が一本見えるだけだ。

しかし、レンはそれとなく鞄から何かを取り出す。



「あ、それ」

「パンだ」

「パンですね。いつの間に?」

「昨日焼いておいたんだ。気づかなかったか?」

「そーいや、香ばしい香りが漂ってたような……」

「パンだったんですね」

「愚痴る前に出せばいいじゃないですか」

「いや、今思い出した」




えー、と皆で口を尖らせる。レンはなんだ、と3人を見下ろした。

腐らないようにカチカチに焼かれたパンがそれぞれに手渡される。



「……これ、食えるのか?」

「失礼だな。ちゃんと食える」

「少しずつかじればイケますよ」

「かじれるんですか?」

「だから、失礼だろ。ただのバケットだ」

「あ、バケット……それなら硬いですね」




はあ、と無意識にため息を吐いてパンをかじりながら歩き出す。

あ、と思いながらついて行く3人。ギルシードがかじりロイがかじりシーナがかじり付いた。


かじり付いた……のだ。



「あが」

「シーナ……おまえ女子だろ」

「あひぇ」

「そんな大口でかじりつくなよ。欲張りだな」

「あ、そうですね」



ギルシードが呆れながら指摘するとシーナは気にした風でもなく少しだけかじる。

そんな彼女に安堵しながらギルシードもかじった。



(今のはヤバい。いくらシーナでもあれはない)



硬いですね、とさっき言ったバケットに大きく口を開けてかじりついたシーナ。

あが、と言って動きを止めたためギルシードが見てみれば顎が外れそうなくらい開かれた口。

レンが見れば卒倒しそうな程の微妙な光景だった。



(まさか、身体だけじゃなく顎も柔らかいのか!?)



と、なんともアホな考えを思い付いていたギルシードも知らずにシーナはもぐもぐとパンを頬張っていた。