「ロイ、どうした?」

「……いえ、なんでもありません。行きましょう」




立ち止まったままだったロイを不思議に思い声をかけたギルシード。

ロイは物思いにふけるのを止め、後を追う。




(今は今、昔は昔。今の自分は昔とは違う)



その手に掴んだ自由を、今は持っている。


そのことが、ロイにとっては嬉しかった。



「……うわっ!」



後方から声が聞こえてきた。それと同時にドサッと倒れるような音。

ギルシードが振り返ると、転んで倒れているケイと、起こそうとているロイの姿が目に映った。


どうやら草に足を取られ転んだらしい。



「おいおい、大丈夫か?」

「イテテ……うわぁ……俺ダサっ」

「膝から血が出てますね」

「これくらい平気。急ごうよ」



血が流れているにも関わらず歩き出そうとするケイ。そんな彼を引き止めギルシードはネクタイを外し膝に巻き付けた。



「傷を甘く見ない方がいいぜ」

「……ありがと」



ケイが照れくさそうにお礼を言ったとき、後ろから草を踏む複数の足音が近づいて来た。

3人が顔を見合せ振り返ると、ちょうど木の影から男が出て来たところだった。そして、続いて現れたのは女性。


その姿にロイはハッとした。



「ルートお兄様、セレナ……」



先頭の男がこちらを振り向き立ち止まる。そして、目を丸くさせた。

後ろにいた女性もこちらを見たが、表情を変えずにこちらを凝視しているだけだった。



「なんだ?どうした」



女性の後ろから現れた男はそう言うと、こちらを見た。とたんにパッと表情を明るくさせる。




「ロイ!ギルシード!上手くやったのか」

「あ?あ、ああ……まあな。つーか、なんでここにいんだよ。聞いてねーぞ」



ギルシードは現れた一行の先頭の2人に視線を送りながら怪訝そうに答えた。

しかし、レンの後ろから現れた女性に声を上げる。



「シーナ?シーナじゃねぇか!なんでここにいんだよ!

もう、わけわかんねぇ。誰か説明してくれよ!」

「……」



ギルシードは頭を掻きながら吠えた。隣に突っ立っているケイは現れた一行に呆然としている。

ロイは視線だけでルートと対峙していた。


誰も動けなくなった空間。それを破ったのは意外な人物だった。



「……っくしゅん!」



やっと追い付いたメリナは盛大にくしゃみをした。それで場の緊張の糸がものの見事に緩みだす。

メリナは恥ずかしくなってぼそぼそと呟く。



「花粉症なの……」



ここは庭。花がそこかしこに咲き乱れており、さらに少し風も吹いている。

その風に髪を弄らせながら、ルートが第一声を放った。




「セレナ、これはどういうことだ?」



恐らくほとんどの事情を知っているのは彼女ただひとり。

彼女はケイを一瞥した後、静かに告げる。



「私にもわからないことはあるわよ。そこの男の子とかね」



ひいっ!と肩をびくつかせたケイ。しかし、そんなケイには目もくれずセレナは口を開く。



「まず謝るわ。実はレンさんともシーナさんとも今日初めて会ったの」