「……ちょっと待ってくれよ。じゃあ、お兄さんは……」

「そう、僕は第三王子。本当はあんまり素性を口外したくないんだけど、誰かさんのせいで変な疑いを受けるからね」

「……今さらだけど、ため口のままでいい?」

「もちろん。僕はただの19歳の男。それ以上でもそれ以下でもない。王子なんてまっぴらごめんだし、こうやって知ってる人は限られている。

いてもいなくても同じなら、自由を手にしたいよね」




ロイは目をぱちくりさせているケイに、ある程度のことは説明した。さすがにブランチだということは伏せたが……もしかしたら脱出の手助けをしてくれるかもしれない。

案の定、ケイはその常識はずれな内容でも真摯に聞き入ってくれた。これが大人相手ならばこうはいかない。



「王様がそんな人だったなんて……その間はずっとこの部屋の中にいたんだよな?」

「そう。食事は運ばれて来るけど、ない日もあった」

「俺はまだいまいちデカル教のこと知らねぇけど……適応者ってだけで王子でも迫害を受けるんだな」

「まあ、デカル教は適応者を目の敵にしているから仕方ないんだよ。誰が信者なのかの見分けも難しいし」

「少なくても、俺の家族は平気だぜ。父ちゃん、母ちゃん、兄貴にちびっこ3人」

「3人って?」

「男の三つ子なんだ。最近ませてきて参ってるよ。この間なんかシーナさんと一緒に寝るとか行って……」

「ちょっと待て、シーナ?今シーナと言ったか?」



ロイはケイの肩を掴むとガクガクと揺さぶった。その必死さにケイは首を縦に何回も振る。

しかし、だんだんと気分が悪くなってきたのか、ロイの腕を掴み離した。その様子にロイはハッとする。




「す、すまない……つい」

「……シーナさんを知ってるの?」



ケイは頭を片手で押さえながら聞いた。ロイは本当に申し訳なさそうに眉を下げている。



「ああ。一時一緒に旅をしていたんだ。まさかこっちに来ていたとは……」

「そう言えば、この街にいるはずの人を探してるって言ってたような……」

「それは僕たちのことだよ。彼女は最近まで寝込んでいたんだ。それで、跡を追ったんだきっと」

「寝込んでた?そんな素振りはまったく……」

「彼女は周りに心配をかけたくないタイプだし……自分でも体力が落ちてるって自覚してないのかもしれないな」



それでは……今頃シーナは無理をしているということになる。

弱った身体でバイトなんてできるのだろうか……とケイは心配になった。



「実は……シーナさんは今バイトをしてるんだ」

「なんだって?」

「父ちゃんがここの料理長でさ……ほら、今日ってパーティーじゃん?それで、人手が足りなくなったからシーナさんにお願いしたんだ」

「……それなら、平気だと思う。会場にも仲間がいるから。いざとなれば彼が助けるだろうし」

「そうなのか?あの男だけじゃないのか?」

「さすがにひとりで僕を奪還することは無理だよ……でも、面倒なことになっていなければいいんだけど」

「おーっす、ギルシード様のお帰りだー」



ちょうどそのとき、ギルシードが帰って来た。走ったためか、少し汗をかいている。


実はそのとき、ロイの言うその面倒なことが、向こうでは起こっているのかもしれない……