セレナは静かな目付きで会場を見回していた。まるで自分はここの第三者的存在……傍観者のような眼差しで。

すると、偶然にもレンとセレナの視線がかち合ってしまった。

少しの間、2人とも目を反らさずにいたが、ふと、セレナが口パクで「来て」と言ってきた。



(なんだ……?俺との面識はないはず。あるとすれば、ロイに何かしら聞いているとしか思えない)




「では、俺が確かめに行って来る」

「え?レン?」




ラスの声を後ろから聞きながらスタスタと会場内を横切る。そんなレンをセレナはただじっと見つめているだけだった。


意外にも、近づいて来たレンにセレナから話しかけてきた。




「あまりじろじろと見ないでくださらない?思考が筒抜けよ、レンさん」

「やはり、俺のことを知っていたか」

「ええ。お兄様から聞きましたわ」



セレナはけろっと笑って見せた。そのままの微笑でレンと話す。


……彼女も相当な演技派女優のようだ。レンに気があると見せかける完璧なフェイク。

つまり、今いいとこなんだから邪魔しないで、という他者への見せしめだ。レンもそれに便乗する。しかし、決してそんな生ぬるい話内容ではないのだが。




「それで、あなたは私に何を聞きたいのかしら」

「ロイはやはりあの二階の部屋にいるのか?」

「ええ。お父様の計らいでね」

「まさか……知っているのか」

「そうよ。お父様がお兄様のことをどのように思っているか……私は素知らぬ態度を取っているつもりだけれど、もしかしたら気づかれているかもしれないわね」

「過去の過ちを償うためか?」

「あなた……どこまで知っているの?お父様が裏で糸を引かれ、操り人形と化していたことを……」

「それは言えん。だが、事情は知っているつもりだ」

「そう……」




2人は小声で語り合っている。しかし、あくまでもそれは内面状ではであって、外面状ではにこやかに談笑しているとしか思えない。

レンもうまく演技できているようで、そんな2人の様子を遠くから眺めているルートとラスは目を丸くさせるばかりだ。



「あの2人の間にいったい何が起こっているの?あんなに仲良くしちゃって……狙ってないとか言ってたくせに。年の差?」

「ああ……俺も驚きだ」

「あーあ……すっかり見いっちゃってメロンソーダの炭酸抜けてきちゃったじゃんかよー」

「俺のコーヒーも……砂糖が底に沈んでいやがる」



実は、レンとセレナが談笑している間にシーナが飲み物を運んで来ていたのだ。

飲み物を取りに戻っていた道中で、料理長に忘れ物を届けてくれ、と赤いスカーフを兵士から受け取った。それを届けていたため、少々時間がかかってしまった。

そのため急いで3人のもとへと戻ったのだが……時すでに遅し。


シーナは終始微笑をたたえていたが、それは仕事だからであって……あの2人の和やかなムードを目撃してしまったシーナにとっては、その営業スマイルは苦痛でしかなかった。



「レンさん……」




シーナは俯き加減でさっさとその場から踵をかえし、2人をなるべく視界から外しながら仕事に集中していた────