ケイはわけもわからず近くにあった階段を上らされた。相変わらず口は拘束されたままで不愉快極まりない。

そして、階段を上りきり男はきょろきょろと誰もいないことを確認した後、素早く歩き出した。

ケイは肩を強引に押されながら歩く。




(こいつ、思ったよりも背高くないな。なのになんでこんなに力が強いんだよ!くそっ!)




ケイはイライラとしながら仕方なく歩く。すると、男がピタッと動きを止めた。どうやらどこかにたどり着いたらしい。

男はケイに小声で話しかける。




「いいか、おまえはこれからずっとある部屋の中にいてもらう。そこには男がひとりいるが、悪いやつじゃねぇ。だから絶対に傷つけるなよ。それだけだ、わかったか?」

「んーんー(わかるわけねぇだろ)」

「心配すんな。ちゃんと忘れ物は届けてやるし、おまえも用が済んだら解放してやる。それまで言うことを聞け。騒ぐんじゃねーぞ」

「……」

「ここでじっとしてろよ。俺はちょっくら掃除してくるわ」

「ん!?」




男はそう言い捨てるとダッと曲がり角から出て行った。そして短い呻き声の後に男の声が廊下に響く。




「もういいぞー!」

「んだよったく……は?どうなってだこれ!」

「どう見たって掃除だろ」

「兵士をやっつけるのが掃除なのかよ!」

「だーもう!うるせーな。早くこの部屋ん中入れ」

「うわっ!」




ケイは男に腕を掴まれると、そこにあった部屋の中に有無を言わさず放り込まれた。

部屋の前では兵士が2人のびていたが、それは見なかったことにしたい。




「ロイ!ちょっくら寄り道しないといけねーからこの小僧の相手頼むわ」

「……まったく状況がわからないんですけど」

「鍵は閉めっから安心しろ!じゃな!」

「……」

「君も被害者だね。彼はてんで奇想天外なことばかりをする人だから。さあ、適当に座ってよ」




ケイはふらふらと椅子に座った。

目の前には知らない好青年。窓のない部屋。外では兵士がのびている。そして、忘れ物のスカーフを受け取って届けに行った貴族風の男。




(なんでこんなことに……)



「帰りたい……」

「え?」




ケイは呆然とそう小さく呟いていた。やけに泣きたい気分だった。