「ロイ、久しいな」




僕は今、暴力を振るわれ項垂れた姿を陛下の前にさらけ出している。

僕の仮面の役割をしていた伊達眼鏡は徴収されてしまった。恐らく捨てられたのだろう。

そのおかげで、母さんに酷似している素顔が露になってしまった。もう、しらを切ることは不可能だ。



それにしても、なぜ僕はここにいる……?




「……陛下、お久しぶりでございます」




僕は掠れた声で挨拶を交わした。

周りからは親戚の好奇な眼差しが向けられ、僕の身体に突き刺さる。

その中には、歳の離れた一番上の兄、二番目の兄、三番目の姉、そして妹がいた。


一番上の兄はすでに妃を迎え、31歳になったばかりだろう。二番目の兄は25、姉は24、妹は18……だったような気がする。

ちなみに僕は、19だ。


皆きらびやかな衣装を纏い、僕を見下ろしている。でも、その中でも妹は僕と交友を持っていた。

だからか、そのつぶらな瞳には同情の色が浮かんでいるように見える。



「おまえは……どこで何をやっていたのだ?」



目の前に偉そうに鎮座している男に聞かれた。

わかっているだろうに、白々しく質問を寄越してきた。

僕がわざと黙って俯いていると、横にいた護衛に脇腹を蹴られた。僕はなんとか耐え、渋々といった形で答える。



「手品師を……やっておりました」

「それだけでは無かろう……?」



こいつ……とんだタヌキジジイだな。まだ吐かせる気か。五十路の腑抜けめ。早くその椅子から転げ落ちてしまえば良いのに。

いつまで現役を名乗ってんだよ!世代交代しろ!


……と、心の内では悪態をつく。




「ブ、ブランチに……」

「ブランチ……だと?あんな奴等の犬になっていたのか。トゥルーク王家の血筋を引く者のやることなのか?」

「僕は……」

「もう、良い。わしはおまえに幻滅したぞ。あいつに似ている男が現れたと聞き、待ちわびていたが……とんだ愚行を犯していた者とは。

貴様はもうトゥルーク王家とは縁も何もない、赤の他人だ。

……部屋にぶちこんでおけ」

「「はっ!」」




と、僕は数人の護衛に引きずられるようにしてその場から排除された。


……なぜ牢ではなく部屋なんだ?


いろいろと不可解なことがあるが、生憎調べる術はない。


ちらりと妹の様子を窺うと、その瞳は驚愕で大きく見開かれていた。

何に対して驚いているのかはわからないが、まだ味方であってほしいと切実に思う。



最後に王の顔をしかと目に焼き付けておこうとして見てみると、意外なものを見てしまった。




……なぜ、そんな顔をしているんだ。




笑いたければ笑えば良いはず……なのに、なぜそんな憐れみの目で見ているんだ……?


その表情は、当分消えそうになかった。