僕の母親は、病弱だった。心臓に病を宿らせてしまったのだ。不治の病で、どうにもできないようだった。

しかし、母さんは強く生きていた。苦しみながらも、懸命に今を生きていたのだ。

そんな母さんを、僕は尊敬していた。そして、支えになりたい、と切実に思っていた。


僕はトゥルークの王と最下の側室との間にできた子供だった。母さんは知っての通り病弱だったが、王が一目惚れし、最下ながらも側室へと招き入れた。

母さんも、そんな王の献身的な態度に魅せられ受け入れた。その態度は僕が産まれてからも続く……はずだった。


それは、僕が適応者だと判明するまでの、ほんの短期間だけの付き合いで幕を閉じたのだ。



実は、トゥルークの王族のほとんどが、デカル教徒なのである。

もう、おわかりだろうか?

そう、僕は適応者だから王子にも関わらず王族としての扱いはなされていなかったのだ。食事も忘れられてしまうこともあれば、1日無い日もあった。


それでも、王は母さんに対してはそれほどキツくは当たらなかった。

それもそのはずだ、放って置けばその内亡くなる命。処罰を与えずとも、やがては消えてしまう儚き光。


それは、僕にとっては心の支えでもあった。母さんにまで被害が出ていれば、もしかしたら僕はすでに死刑にされていたかもしれない。


僕が半狂乱に陥って……



それほど、デカル教の適応者への偏見は目に余るものがあった。そのため、トゥルークにはブランチの支所はない。昔はあったらしいが、だいぶ前の話だろう。

そして、その支所があった場所というのは……僕の師匠の家だ。嘘か真かはわからないが、あの貸家はもとはブランチの支所だったらしい。

さらには、師匠はトゥルーク支所の長を勤めていたそうだ。今は現役を引退し、のらりくらりと手品を披露しては人々に癒しを与えている。



ちなみに、僕がそこをわざわざ選んで住みついていたわけは……母さんの安否を知るためだ。僕は母さんとは別々にされ、情報は全く入って来なかった。それでも、僕は信じて毎日を送っていた。

そして、正統な王子である兄の成人式のときに、こっそりと軟禁されていた部屋から飛び出した。母さんに会うために……

しかし、場所もわからず途方に暮れた。そこまで頭が回っていなかったのだ。それから、賑やかな通りを避け街中で路頭に迷っていると、声をかけられた。

その声の主こそ、師匠だった。


そのとき、僕はまだ6歳だった。



僕が城を脱け出したことは公にはされていなかった。僕は忘れ去られた罪人。皆はとっくのとうに忘れている、或いは目の前にいても気づかれない、とたかをくくっていた。

だが、僕はある誤算をしていた。



僕は成長したことにより、母さんとそっくりになっていたのだ。