「レンさんはどちらへ?」

「俺は……調査をちょっと、な。詳しくは話せない」

「調査?魔物関係なんだろ?」

「どちらかと言えば、人間寄りになる」

「歯切れの悪い返しだな。少しぐらい教えろよ」

「……気になる宗教があるんだ」

「宗教……ああ、アレですか」

「ロイの言うアレで合っていると思う」

「アレ?」




あそこ、やら、アレ、やら隠語が多すぎて話についていけないシーナ。

頭の上にまたハテナマークが浮かぶ。




「説明はロイから聞いてくれ。俺は部屋に戻る」

「わかりました」



レンはそう言い残すと、立ち上がってトレーを片付け食堂から出て行った。

完全に見えなくなってからロイが話し始める。




「宗教と言っても、色々とあるのはご存知ですよね?」

「はい」

「最近できた宗教というのが、アレです」

「アレ……」




だからなんなんだ、とシーナは眉間にしわを寄せた。

早く続きが知りたくてうずうずとする。



「アレ、とはデカル教のことです」

「ああ、デカル教な。あれは俺には理解できねぇ」



食べ終えたギルシードが相槌を打つ。



「それは僕も同感です。デカル教とは、魔物は神だと信じている普通の人間の集まりです」



ロイの話によると、そのデカル教は年々広がりを見せ、ブランチにちょっかいを出すようになったとか。

ちょっかいとは、つまり邪魔をすること。

ブランチの建物を壊したり、喧嘩を売ったり。


だが、決して半狂乱になって行動しているようにも見えないらしい。

そのため、信者かどうかの見分けが難しいのだ。


そして、ある噂が流れているという。




「人柱を捧げているそうです」



と、ロイは暗い表情で小声で言った。



なんでも、人柱を捧げることで信者は命を狙われないらしい。

しかし、信者関係なく襲われているため人柱を止めることはないだろう、ということだ。



デカル教の教えでは、魔物は神と同等、或いはそれを超越した存在である。

現に、彼らは彼らの空間、影の世界を造り出した。

すなわち、彼らは神であり、人間が抗ってはいけない存在なのだ。

と、あるそうだ。




「だから、適応者は意味嫌われています」

「迷惑な話だよな。俺たちはおまえらのために戦ってるわけでもあんのによ、邪魔されんだぜ?恩を仇で返されちまうんだ」

「理不尽な宗教ですが、信者が増えていることは事実です。何についての調査かはわかりませんが、レンさんは恐らく危険なことに足を突っ込むことになるんでしょうね」

「……ひとりで、でしょうか?」

「それはないんじゃねーか?いくらなんでも単独が好きとは言え、危険過ぎるぜ。まあ、あくまで隠密にだから、3、4人ってとこか?」

「本人に聞いても教えてくれなさそうですがね。レンさんが席を外したのは勝手に僕たちが話していることであって、彼が教えたわけではない、という意思表示でしょうし」

「ま、任せるしかねーわな。俺らも戻ろーぜ」

「そうですね」




不安がシーナの心を渦巻いているものの、どうすることもできないのか、という諦めによって脱力せざるを得ない。



(もし……)



いや、止めよう、とシーナは頭をぶんぶんと振る。



最悪な結果など、ありはしない。

あっては、ならないのだ。






そして、3人は旅立った。

ひとり、雪のちらつく外にぽつんと立つシーナ。


白い息の先には、3人分とサラの足跡が見えている。しかし、時間が経てばいずれ消えて無くなるだろう。

それを寂しいと思いながらも、自分も頑張らなければと奮い立たせる。


シーナは自分のためにまだ少し開いている後ろの大きな門に向かって踵を返す。

これからその身に降りかかる、苦難の道のりへと自ら足を進める。


そして、ギィ……と鉄鋼の門は閉ざされた。








それが、約1年半前の事だった─────