「そのへんにしておけ」

「ええっ!まだ飲めますよぉー!」

「……ウルサイです」

「ああ!?今ウザイっつったか!?」




ここはブランチにあるバーである。

それなりに繁盛しているらしく、店員があたふたと行き交っている。

4人は丸いテーブルを囲んで飲食中。

もちろん、飲とは飲酒のことだ。


ロイが成年だったことは驚きだが、もっと驚くべきことはシーナとギルシード、共に酒に弱いということ。

シーナは一杯目、ギルシードは二杯目から泥酔している。賭けをしていたときの酔い方が嘘のようだ。




「……レンさんはザルなんですか?」

「ん?まあな」

「僕もです」

「勝負するか?」

「……酔ってますね」




普段は言わないようなことを言うレンに呆れ気味のロイ。この中では一番若いはずが、貫禄さえ見える酒の強さ。

レンはどこかぼーっとしている。

シーナはテーブルに突っ伏し、ギルシードはつまみをちびちびと食べている。



……なんとも微妙な光景である。




「そろそろ終わりにしませんか?」

「……そうだな」

「あ?俺はまだ飲めるぞぉー」

「飲んだら二日酔いになりますよ」

「俺は酔わないんだぁ」

「語尾にしまりがないので説得力に欠けます。さあ、帰りますよ」

「ちょちょちょ……待て、引っ張るなぐらぐらするだろーが」

「まだ引っ張ってませんけど……」




こりゃ重症だ、とため息を吐くロイ。事実、ロイはギルシードの腕を掴んだだけであって引っ張ってはいない。


レンは静かに立ち上がると、シーナの肩を叩く。

ん……と声を上げた彼女だが、どうやら眠りは深いらしく起きそうにない。


レンもため息を吐くと、シーナの身体を軽々と背負った。




「ロイ、ギルシードは頼んだぞ」

「はい。シーナさんもよろしくお願いします。ごちそうさまでした」

「ああ」

「ローイー。どこ行くんだぁ?」

「だから部屋ですよ」

「あー……風呂入りてぇ」

「勝手に入ってください」



とロイも律儀に、ギルシードの一言一言に返事をしながら、ずるずるとギルシードを引っ張る。

レンは彼らを見送った後、勘定をすませ立ち去る。

割り勘にしようかとも思っていたのだが、レンが一番懐が肥えているだろうということで強制的に押し付けられたのだ。




シーナを背負い直しゆったりと進む。


人気のない廊下を歩いていると、シーナがむにゃむにゃと何かを言い出した。

その声に耳をすますレン。



「……レンしゃんの……バカぁ……」



バカ?



「子供扱いして……女として見てくれにゃくて……鈍感ーいじわるー……」



シーナが急に弱々しく暴れ出した。レンの背中をぽかぽかと叩く。


レンはなんのこっちゃ、と特に気にせずに歩く。酒の力でさらに鈍感さが増しているようだ。




シーナの部屋の前に着くと、鍵はどこだと彼女を下ろしポケットを探る。




「レンしゃんの変態ー」



シーナは反射的にレンの手を掴んで訴えた。正気なのか寝ぼけているのかわからないが、目が真剣だ。



「……鍵は」

「鍵?んーと……どこだっけ」

「はあ……鍵探すだけだ」

「本当?」

「本当」

「なら良いや」




と、シーナはあっさりとレンの腕を離した。


鍵は無事に見つかり、ガチャッとドアを開けて中に入る。

レンはぼーっと突っ立ってシーナを引っ張り込みバタンと閉める。

そして、ベッドに座らせるとコップに水を注ぎ手渡した。



「ほら」

「水?」

「水」



おずおずと受け取ると、ちびちびと飲み始めたシーナ。

レンはそれを見届けると部屋を出ようと踵を返した。



「……どうした」

「気持ち悪い……」

「……」




袖を掴まれたと思ったらとんだ爆弾発言。

うっ……と口を手で押さえ始めたため急いで身体を支えてお手洗いに向かう。


レンは背中をさすりながら、なんて小さな身体なのだと今さらながらに実感した。


こんな身体で群衆の前で踊っていたのか、この身体のどこに力が秘められているのか、と。



うええ……と悶えているがいっこうに出て来ず、シーナは疲れたのか身体の力を抜いた。



「おっと」



腕を前に回し抱き止める。カクッと頭が下がったと思ったら、規則正しい息遣いが聞こえて来た。

今度は起きる気配が全くない。



はあ……とレンはため息を吐きたい気分だが、吐いたとしても仕方ないと思い腕にシーナを抱き上げベッドに下ろす。

横たえさせ布団を被せると、踵を返そうとした。


が、またもや袖を掴まれ動きを止める。振り返って見るが、起きている様ではないようだ。

自分の部屋に戻るのを諦め、ぎりぎり届くところにあった椅子を引き寄せそこに座る。

その間も片腕は塞がれたままだったが。



「……はあ」



何度目かのため息を吐き、目を閉じたレン。





窓の空には、無数の星が輝いていた。