「……お、レンじゃん。どうしたんだ?」




本部である灰色の建物に足を踏み入れると、受付にいた男に話しかけられた。


建物の中は広々としていて、天井は高く吹き抜けになっている。灯りがついているものの、時間が時間なだけに辺りはしーん……と静まりかえっている。


受付は24時間体制で夜間でも客の対応ができるようにしてあるらしい。



「志願者を連れて来た」



後ろにいるギルシードとロイを親指で指し示す。男はひょこっと首を覗かせて確認した。



「紹介状は?」

「持って来ました」



ロイが荷物から紙を2枚取り出した。1枚をギルシードに渡す。



「確認するから待ってな」



紙を受けとると奥へと引っ込んで行った男。レンはその間に確認しておきたいことがあった。



「シーナは……どうする?」

「わたし、ですか?」

「ブランチに入るか否か。紹介状のサインは俺が書くが」




うーん……と悩むシーナ。

この時がいずれ来るとは思っていたが、いざとなっては答えに迷う。

入りたい……と思う反面、自分がなったところで何もできない気がする……という自信のなさが目立つ。



(でも、入れば何かしらあるかもしれない)



その何かがどのようなものなのか、本人にもわからない。しかし、こんなチャンスは二度と訪れないような気がしたのだ。


シーナはレンに向かって首を縦に振る。




「わたしで良ければ」

「……確認完了。はい、バッジと手帳。絶対に無くすなよ?」



シーナが答えたとき、ちょうど男が戻って来た。トレーの上には2つずつ、星形のバッジと手帳が置いてある。



「へえー……これが」

「これからこの星が増えて行くんですね」

「……すまないが、追加はできるか?」

「だろうと思った。そこのお嬢ちゃんとの会話はだだ漏れだったし。はいよ、紹介状とペン」

「ありがとう」



バッジを摘まんで眺めている2人の横で、それらを受け取りさらさらとペンを走らせるレン。

その光景をドキドキとしながらシーナは眺めていた。


新しい生活の、始まり。


ここから、彼らの日常は変わる。






「んじゃな、おやすみー」

「おやすみなさい」

「寝坊しないでくださいよ」

「わーってるよ。いざというときは起こしてくれよな」

「鍵持ってませんから」

「……ちっ。早起きとかめんどくせー」





それぞれが部屋の中に入って行く。

久々の入浴で疲れを感じたのか、早々と眠りにつこうとそれぞれドアを閉める。部屋は全員隣にずらっと並んでいる。


民宿とは違い、清潔感のあるこじんまりとした部屋。机、椅子、ベッド、鏡、時計、オイルランプが備えつけられている。

シーナはベッドのシーツにしわがひとつもなく、入るのには少し戸惑ったが眠気に逆らえずダイブする。

ギシッとスプリングの音が鈍く響いた。



明日は7時起き。早起きが身体に定着している彼女にとってはなんら問題はないのだが、疲労がどれ程貯まっているのかわからないため、油断はできない。

食堂が開いているのは8時まで。比較的空いているようで、並ぶ必要はないようだ。


布団にくるまりオイルランプの明るさを下げる。

そして、真っ白な天井がシーナの青い瞳に映った。

一瞬、あの黒くてドロドロとした魔物が脳裏に浮かび、慌てて追いやる。



(ダメだ、寝なきゃ)



身体を横に向かせ、目をぎゅっと閉じる。



(考えちゃ、ダメなんだ)



そう自分に言い聞かせているうちに、いつの間にか寝息をたてた彼女。




外では雪が満天の星空の中、しんしんと静かに降りそそいでいる。