シーナは布団を被りながらうとうととしていた。

レンの話を聞いて、すぐに2人してテントに潜ったのだ。いつの間にか夜は耽り、寒さが倍増していた。

しかし、それに気づかず夢中になってレンの声に耳を傾けたせいか、その耳が寒さで痛くなっていた。



戻るか、と苦笑しながらそう言われ、今にいたる。

レンがもともと孤児だったとは薄々汲み取っていたシーナ。レンに感じる壁はそれでか、と思わずにはいられなかった。

他人とはあまり関わらないようにしていた癖が残っているのか、他人が踏み込めない領域があると感じていた彼女。

しかし、今夜の会話でその領域に少し踏み込めたような感触を得たようだ。




(レンさんには、親がいるはず。でも、捜索願いが出されていないってことは、捨てられたか、誘拐されて逃げたか……それか、魔物に拐われたのかもしれない。たぶん、レンさんは死んだと思われているのかな)




そんな彼について色々と考えていたせいか、目が冴えてしまったシーナ。眠気は当分やって来そうにない。

後ろから聞こえる寝息に耳をすましながら目を閉じてみる。そういえば、こうやって誰かと寝るのは久し振りかもしれない、とシーナは思った。



実は、今回の野宿は初めての野宿なのだ。今まで宿で夜を過ごしていたため、いつもひとりで寝ていた。それぞれ1人用の小部屋を4部屋借りていたためだ。

他の2人は何をしているのかは知らないが、レンはブランチのある建物に行っては依頼を受けていたような気がする、と彼女はぼんやりと考える。


正統なブランチは自分しかいないから、ひとりで何とかするしかない、と思ったのだろう。

さらに、あわよくば魔物退治もできればと考えていたに違いない。だから昼間は寝てばかりいたのだ、とシーナは気が気ではなかった。

なぜなら、昼夜逆転の生活を送っていたからである。不健康過ぎる、と議論したことがあったが、きみを護るためだ、と言われてしまえば言いたかったことが全て頭から飛んでしまった。


自分が撒いたタネだとはわかっているものの、どうしても手をつける気になれないでいるシーナ。

レンからは、影の世界に間違っても行くなとキツく言われている。そのため彼女は魔物とは無縁な生活を送らている。だが、それは全てレンのおかげだ。

自分でなんとかできないものか、と思う反面、出しゃばっても迷惑になるだけだ、と思う自分がいる。


その境界線に仁王立ちしたまま動けないでいる自分が情けなく感じてはいるが、このままフロンターレに着いてしまえばなんら問題はないと思えて来る。

……障害さえ、無ければ。




いつしかうとうとは、うつらうつらに変わり睡魔が襲って来た。待ちくたびれたその波に安堵しつつも、この先の不安は断ち切れない。




(わたしは、フロンターレに着いた後どうなっちゃうんだろ。ブランチに入団するのかな、でも紹介状もらってないけどな)




ブランチに入ってみたいと密かに思っているシーナ。適応者だと判明している今、皆の役に立ちたいと心から願っていた。

せめて、この撒いているタネから出た新芽を自分で摘み取りたいと、切実に考えている。


しかし、そのことはまだ言わなくてもいいだろうと客観視しているシーナ。恐らく、自ら魔物に会いに行くような真似をするということだから、レンからは反対されるかもしれない。

それでも、皆の足手まといにはなりたくない彼女は、眠気に誘われながら硬く決心するのであった。