目を閉じ意を決して重ねたけれど……

どうしていいかわからないからすぐに離れた。皆さんが見てないとも限らないし。


離れた途端、身体がぐらりと傾いた。

へっ?と思ったのも束の間、すっぽりと身体を包み込まれる。



「シーナ……か?」

「レン……さん?」



名前を呼ばれたことに驚いて見上げると、そこには紛れもなく本人が宿す瞳の光があった。

温かい光。懐かしい光。




「俺は……いったい……」

「レンさんはずっと眠っていたんです。でも、もう大丈夫ですよ。寝る必要はありません」

「そう言えば……あのあとどうなった!あいつに何もされてないか?」



あのあと……彼とレンさんの部屋で話をしたとき?

肩をゆらゆらと揺さぶられ、また腕を回される。



「何もされてませんよ。レンさんが止めてくれたじゃないですか」

「そうか……よかった……」

「あの……そろそろ離してくれません?」

「……嫌だ」

「え……」

「このまま、このまま……いてくれ。俺、わかったんだ。あのときに確信したんだ」

「なにをですか……?」

「……シーナが、好きなんだ」

「え?」



声が小さくてよく聞こえなかった。いや、聞こえてた。でも……信じられない。




「妹としてではなく、女性として。自分の気持ちに気づかなかったんだが、実感した。

俺は、きみが好きなんだ」

「レンさん……」

「きみは……どう思っている?」

「私は……私も……レンさんが好きですぅ……」

「なんで泣くんだよ」



笑って涙を拭いてくれるレンさん。私は泣き笑いのわけのわからない表情だからレンさんの胸に顔を埋める。

笑いの震動が伝わって来て……


ああ、ちゃんと生きてる。もう、大丈夫。



「だって……レンさんが……ずっと気づいてくれなくて……」

「はははっ、俺のせいなのか?」

「妹だって言われて微妙な関係で……ずっと不安で……好きなのに気づいてくれなくて……」

「……それはすまない。でも、俺も気になっていたから一緒にいたいと思ったんだよきっと。シーナと、一緒にいたい。繋がっていたい、ずっと、な……」

「はい……ずっと一緒です!だから、自分を卑下しないでください」

「……」

「レンさんはきっと、自分の世界を見てしまってわからなくなったんです。迷子になってしまったんですよ。忘れていた過去を思い出して未来を見失って、諦めたんです。

……でも、もう絶望なんてしないでください。私を頼ってください。周りを頼ってください。人間は、ひとりでは生きられないんですから。私がいつでも側にいます」

「側に……」

「はい。人は自分を自分の目で見ることはできません。鏡とか、反射できるものがないと自分を認識できないんです。だから、自分がどんな感じなのかわからなくて不安になることもあります。

でも、他人から自分は見えます。他人の反応で自分の価値を見出だすことができます。それは決して悪いことではないと思うんです……思うようになれたんです。

だから、レンさんは何も怖がることはないんです。だから……自分を大切にしてください」

「ああ。約束する。自分自身を……きみを、大切にすると」



お互いに固く抱き締め合う。私は彼の首に腕を巻き付けた。レンさんは私を隙間がなくなるほど抱き締めてくれる。



その光景をニヤニヤとされながら見られているのにも気づかずに、私たちはいつまでもそうやって抱き締め合っていた────