「いよいよ、明日ですね……」

「そうですねぇ……努力が実ればいいんですけど」

「なんか、じれってぇよな。今日でぼちぼち適応者は集まってはいるが、これじゃ足りねぇし。明日にかけるしかねぇな」




とうとう、明日は決戦の日である。マーズから適応者を集めろ、と言われてから早2日が経った。


とにかく、ロイもシーナもそのために走り回った。

特にロイ。苦手なお偉いさん方と交渉するときはさすがに緊張したが、マーキュリーたちが呼んでくれていたのか、お偉いさん方の神類を連れて待機してくれていた。

会議はたちまち混乱したが、時間が経つにつれ収まっていった。話の通じる大人でよかったとロイは心底思った。


適応者を緊急召集させるために使者をたくさん送り出した本部。期間が短いため、近い国や地域にしか送れなかったが、それでも十分な人材は確保できるだろうとのことだった。

魔物の行動が最近激化していたのも助かって、本部やゲルベルの森の近くに適応者が集まっていたのが幸いだったらしい。


しかし、本部にいったん帰って来てもらわなくては意味がない。指示がまったく通らないからである。かつ、人数が多いため団結する必要がある。

それを統轄するのは……もちろんロイ。



(リーダーとか向いてないんだけどね……)



どちらかというと、リーダーというよりはサブリーダーに向いているロイ。表だって先陣をきるよりは、補佐として支える方が向いていた。



(本当はレンさんがそこに立つべきだったのに)



しかし、彼はいない。リーダーがいないときは、サブリーダーが指示を出さなければならない。

それをわかっているとはいえ、背負っている責任は重大である。そのプレッシャーにロイはほとほと疲れていた。




「はあ……」

「なんだよ。ため息吐きやがって」

「いえ……慣れないことは疲れます」

「習うより慣れろっつーだろ」

「僕がこういうことをするのは、ギルさんが料理をするのと同じぐらい不器用になってしまうということなんです」

「……てめぇ、然り気無く貶すな」

「だって、本当のことじゃないですか」

「でも、ギルさんの包丁捌き見てみたいです。普段ダガーを使っているので、実は達人並みかもしれませんよ」

「……シーナさん、あまり期待しない方がいいと思いますよ」

「だ、か、ら!本人でもわかりきってることを貶すな!」



なんやかんやとワイワイしている3人だが、これは明日への不安をカモフラージュしているにすぎない。まったく別のことへ関心を向けようと試みるも、目の前にちらつくのは明日のことばかり。

ロイにいたっては、未来を見ることができたらなぁ……とそんな空想染みたことまで考え始める始末。


人間とはなんて不便なんだ、と何もできない自分たちを恨めしく思った。



「そういえば、フリードさんに会うにはどうしたらいいんですかねぇ」

「「……」」



シーナの何気ない一言にピキーンと固まる男たち。そこ!そこ聞いてなかった!




「神だって言ってたよな?」

「何の神様なんですかね」

「さあ?そもそも神って複数いるのかどうなのかよくわからないよな」

「ひとりだけなんでしょうか?」

「でもひとりだけだったとしたら、いろいろとたいへんそうですね。人間は欲望の塊ですから」

「そうそう。神頼みとかいうの止めてほしい。あっちでは雨よ降れーって言われて、こっちでは雨よ止めーって言われてもうてんてこ舞いだよ」

「確かにそうなりますよね……ってあれ?え?」

「今、誰が言った?」

「僕じゃありませんよ」

「私も違います」

「俺だって違うぞ」



突然の返答に顔を見合わせる3人。揃って首を傾げた。

すると、そのかち合っている視線の中間地点を手のひらがヒラヒラと遮った。


その手のひらの主をこれまた揃って振り返る。




「やあ!初めましてー。僕がフリードだよー」

「「「……は?」」」



そこには、見目麗しい男性がひとり、へらへらと笑って手を振っていた。