次の日。

教室に入ると、いつも通り“王子”たちの席の周りに女の子たちが集まっていた。

でも明らかに昨日と違う点があった。

それは天王寺海斗が私の席の隣に座っていたことと、…私を見るみんなの視線かな。うん。

「ねぇ、凪君はケーキ何が好き?」

一人の女の子が、凪君に質問を問いかける。

そうだなぁ…

私の予想。

『お前が嫌いなケーキだよ』

とか?

言いそうっ!

「え~ぼくねぇ、イチゴのクリームのやつ~」

「かわいい~」

はい?
はい~~?

甘い声をだしてえへへ~と笑う凪君。

え?

「ねぇ、私、髪型変えてみたの。どうかしら?君島君」

俊君だったら、『似合わない髪型、やめた方がいいんじゃない?』とか?

「めちゃくちゃ似合ってるよ。君みたいなかわいい子、そばにおいておきたいな」

んなっ!?
なんでっ!?

私の時と全く違うじゃん!
「北原君、部活お疲れ様です」

そう言ってタオルを差し出す女の子。
陸君はそれを受けとると、ニコッと笑って「ありがとう。」と言った。
理人君は何を言われても、ただ黙ってデザイン画を書いている。

あっ…なんかデジャブ…。
でもこの二人は“素”なんだろうな。きっと。

文句を言おうと立ち上がろうとした私の背中に、ドンッと強い衝撃が走る。

「ぃっ…」

「天王寺く~ん」

どうやら天王寺海斗ファン?らしい何人もの女の子たちが、私の背中を押してきたみたい。

あー…たしかあれだ。女子の中の中心人物桜坂美香(さくらざかみか)。

茶色に染めた長い髪をくるくるに巻いて、派手めの化粧をしている女の子。

いっつも派手な子達と一緒にいて、明らかに天王寺海斗のことを狙ってますオーラがガンガンに出てる人。
お父さんが海外で働いていてそれなりにお金持ちみたい。

「ちょっと…」

「痛いんだけど」と言おうと女の子たちに話しかける。
だってやられたらやられっぱなしって嫌じゃん?

だけど、完全無視。

「ねぇ、天王寺君、今度パリの別荘に招待してもよろしいかしら?」
「ちょっ…」
「え~?ずるいわ。私も天王寺さんを誘おうと思ってたのよ」
「ねぇっ…」

当の本人、天王寺海斗は起きているのか、寝ているのか、机に顔を伏せていた。
お前のことだろぉ?

ていうかなんでみんな見てみぬふりなの?

つか心なしか俊君、楽しんでない?顔、むっちゃにやけてますけど。

「え~?なんか聞こえると思ったら、宮崎さんだったの。」

は?

なんかむかつく。

「背中、痛いんですけど。」

耐えろ。耐えるんだ、私。
「あら。やだ庶民は心が狭いって本当なのね。」

桜坂美香がそう言うと、隣にいた女の子たちもつられてクスクスと笑いだす。

ー…何がおかしいの?

「庶民ごときが“王子”の付き人になるからいけないのよ」

ブチッ

「知らないわっ!付き人願い下げなのはこっちだっつぅの!グチグチグチグチいってんじゃねーよっ!正々堂々いってこいよ!金持ちだからって調子こいてんじゃねーよっばぁーか!」

しーんー…

目の前の桜坂美香の顔がひきつっているのが見える。
いや、正確にはみんなの顔が。

やっ…やってしまった。