俺は今日、映画の宣伝を終えると、打ち合わせで事務所に来ていた。


年末まで土日と冬休みは、全部仕事になりそうな気配だ。


「蒼甫。今日誕生日でしょう?」


「えっ?」


「その顔じゃ、すっかり忘れてたのね」


ホントだ。すっかり忘れてた。


「あたしも急に思い出したから、何も用意してなくてごめんなさいね」


「いいよ、別に。気にしないで」


「でもせっかくだし、お祝いしましょう。

冷蔵庫にノンアルコールのカクテルがあるわ。それで乾杯しましょうよ。

蒼甫、コップ出して」


「へーい」


俺は食器棚を開けて、マグカップを取り出した。


一個少なくなってる。


あぁ、そうか…。


優月のイチゴの絵柄のマグカップがないからなんだ…。