私は放課後、学校を飛び出した。


もう勝手に、足があの公園に向かっていた。


電車に揺られること40分。


あの時は、あっという間に着いた気がしたのに、一人だとすごく長かった。


あの日の記憶をたよりに、川沿いを目指す。


あの時は、蒼甫君との話に夢中で、道順なんて全然覚えてなかった。


「あ……」


春に見た桜の景色は、一面ダイオードの青い光に塗り替えられていた。


私はその光の粒達を見上げながら、あの時座った桜の木の下のベンチを探した。


確か、目の前に見えていたビルは細長くて、ビルの最上階にビールの大きな広告看板が出ていた。


「あっ、あれだ」


私はそのベンチに駆け寄った。


そして、座って前方を見つめる。


間違いない。


このベンチだ。


カバンの中から、小さな紙袋を取り出す。


夏の間に買っていた、お揃いのストラップ。


渡すチャンスがなくて、そのままになっていた。


すっかりヨレヨレになってしまった袋を、そっと撫でてみる。


渡せるわけないのに。


来るわけないのに。


どうして私はここに来ちゃったんだろう。


だけど、もしかしたら来てくれるような気がして。


バカみたいだけど、そうせずにはいられなかった。