今日は、仕事らしい仕事を全然しないまま、私は蒼甫君と事務所を出た。


なんだか、ドッと疲れてしまった。


あんなイチャさん、初めて見た。


タレントさんをスカウトする時は、きっといつもああいう目になるんだろうな。


獲物を狙うような…。


「蒼甫君。今日はごめんね」


「ん?いいよ。わりと面白かったし」


「うそだ」


「ホントだよ。優月がどんなところでバイトしてるか、前から一度見ておきたかったんだ。

静華は大丈夫だって言ってたけど、やっぱり心配だったし」


蒼甫君、心配してくれてたんだ。


確か、カフェの時もそうだったんだよね…。


「イチャさんってさ。バイトの上司としては安全だけど、モデルの仕事とか持ちかけるのはダメだよな。
絶対引き受けちゃダメだよ」


「うん、わかってる」


「優月が有名になったら困る」


そう言って、私の顔を覗き込む蒼甫君。


「俺だけの優月でいて欲しい」


綺麗な瞳で見つめたまま、そっと私の手を取った。


「それは私だって同じだよ。蒼甫君が仕事引き受けて、有名になったら困るよ」


「大丈夫。そんなの俺、引き受けねぇよ」


「えっ?」


「いざとなったら、あのバイトはやめよう。また一緒に他のバイト探そう。な?」


「うん…」


蒼甫君は優しい。


いつも私の事を考えてくれてる。


私達は繋いだ手に力を込めて、家路へと向かった。