チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


「まぁいいか。また見つかったら渡すよ」

あっさりとそう言う宮川さん。こういうサバサバした性格は、あたしは好きだ。

「じゃ、早速で悪いけど、そこのキャンバス運んでくれる?」
「え?」
「これみんなボツ作品なのよねー。何を間違えたか、知り合いが全部こっちに持ってきちゃって」

使えないから追い返しちゃったと、悪戯そうな笑顔で言った。

「とりあえず家近いからさ、そこまで運んで欲しいの。で、入れ違いに家にある展示作品を持ってくると」

テキパキ指示をしながら、宮川さんは床に散らばったキャンバスを乱雑にまとめはじめた。

「持てるだけでいいからね。ついてきて」

よっと数枚抱えて、アトリエを出ていく。状況があまり飲み込めていないあたしも、とりあえず小さめのキャンバスを持てるだけ持って後に続いた。

小走りでついて行きながら、今日説明だけじゃなかったっけ?と思う。

でもそんな事を考える余裕もなく、あたしは宮川さんの後ろをあたふたとついていくしかなかった。