チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


あたしがひとつベーグルを食べ終えるまでに、彼女はベーグル2つとレーズンパンまで食べ終えてしまった。この細い体に、どこにそんなに入るというのだ。

「はーっ食べた食べた!」

んっと伸びをして、まだパンが入ってる紙袋をクシャッと丸めた。捨てるのかと思ったが、そのままキャンバスの影になっていたカバンに突っ込む。

「さて。えっと…、ごめん。春哉から名前聞いたんだけど…」
「あ、橘です」
「下の名前は?」
「亜弥ですけど…」
「そう、亜弥!亜弥ちゃんねっ」

ポンッと手を叩き思い出したことに満足して、亜弥ちゃん亜弥ちゃんと、何度もあたしの名前を口にした。

なんだか気恥ずかしい。

「あ、あたしの名前聞いた?」
「いえ…」
「宮川っていいます。えーっと…」

笑顔をあたしに向けて、すぐにさっき紙袋を突っ込んだカバンを漁りにかかった。
「あれぇ?」と呟きながら中身をひっくり返すが、目的のものは見つからないらしい。

「ごめんね、名刺一応あるんだけど、最近バタバタしてて、今行方不明…」
「いや、全然!気にしないでください」

高校生のあたしに、名刺なんて大層なもの、不似合いだ。

それに名刺を見ると、どうしても佐倉さんを思ってしまうし。