そっと小さめのキャンバスを手に取り、それを見ようとした。
その時急に、さっきあたしが入ってきたドアが開く。
あたしは驚いて、思わずそれを落としそうになった。
「あれ?どなた?」
思わずキャンバスを元に戻し、思い切り声のする方に振り返る。
ドアの所に立つ女性が、紙袋を抱えて小首を傾げていた。
長い髪を無造作にまとめていて、落ちてきた前髪を慣れた手付きで耳にかける。
細身のデニムに汚れたTシャツ。お世辞にも綺麗な格好とは言えないが、彼女の雰囲気に似合っていた。
はっきりとした顔のパーツ。その中でも一際目立つ切れ長の大きな目が、あたしをまじまじと見つめている。
「えっと…春樹に紹介してもらったバイトで…」
「…春樹?」
「あ、加藤…」
「あぁ、春樹!春哉のね!」
彼女はどうやらわかってくれたようだが、春哉という名前は初耳だった。多分、いや確実に、あの親切な春樹のお兄さんだろうけど。
「ごめんねー。今日そういえば、来てもらうって言ってたよね」
「あ、はい」
「ちょっと小腹がすいたからさ。最近お気に入りのパン屋さんに行ってきたんだ」



