チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


携帯を開く。着信履歴のマモルの名前。

…電話して、いいかな。

絶対寝てるし、迷惑だと思う。
でもどうしても、マモルと話したかった。

ううん、違う。
声が聞きたかったの。

あの優しい声が、聞きたかった。

さんざん迷った挙げ句、あたしは通話ボタンを押してしまった。

ツ、ツ、ツ、マモルの居場所を探してる音。

小さく目を閉じた。浮かぶのは、佐倉さんの横顔だった。

思わず目を開けて、電話を切る。
切る瞬間に少しだけ呼び出し音が鳴った気がして、これじゃ嫌がらせみたいだと自分を責めた。

携帯を開いたまま、膝の上に下ろす。


どうしてあたしはここまで、佐倉さんに執着してしまうんだろう。

どうしてあたしはここまで、マモルに依存してしまうんだろう。


どうしてあたしはここまで、弱いんだろう。


ふいにバイブが鳴った。続いて流れる『銀河鉄道の夜』。

画面に浮かぶ『着信:マモル』の文字に、思わずあたしは泣きそうになった。

必死でこらえて、深呼吸して、それからようやく通話ボタンを押す。

「…マモル?」