チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~



『わりきれない?そこのとこ』


思わずブレスレットを取る。
そのままそれを、佐倉さんに投げつけた。

少し驚いた佐倉さんの顔が視界のはしっこに入ってくる。

「わりきれるわけないじゃんっ!佐倉さんはどう思ってても、あたしは佐倉さんが好きなんだよっ!?わりきれる程あたし、大人じゃないっ!!」

そのままカバンを手にとり、思い切り車から飛び出した。

何も考えずに、ただがむしゃらに走る。

そこで初めて、雨が降っていることに気付いた。


空が泣いてるから、だからあたしは、自分の涙に気付けなかった。

追いかけてきてくれるなんて思わなかったけど、それでもやっぱり追いかけては来てくれない。

わかってる。あたしは自分から手放した。

手放したらそこで終わってしまう恋だって、苦しい程わかってたはずなのに。

「…バカだよ、亜弥」

ゆっくりと立ち止まり、そして、しゃがみこんで泣いた。

何もついていない右手首が、驚く程に冷たかった。