チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


佐倉さんは何も言わなかった。戸惑ってるのか、呆れてるのか、それすらわからない。

顔を上げることも出来ずに、あたしは呟いた。

「…佐倉さんにとって、あたしって何…?」

…言った。
言ってしまった。

一番、言ってはいけないことを。

全身が固まるのがわかった。
言ってしまった自分とは別の自分が、泣きそうな声で呟く。

バカだよ、亜弥。これは一番の禁句でしょ?これを言ってしまったら、もう…。

小さな佐倉さんの溜め息が聞こえた。思わず手に力が入る。

思い切り目を瞑って、衝撃に備えた。

「…わりきれない?そこのとこ」

冷静な佐倉さんの声。多分、戸惑ってもないし、呆れてもない。

あたし、めんどくさい女になってる。

目を開けた。視界に入ってきたのは、あのシルバーのブレスレット。

それがゆっくりとぼやけて、そして涙がひとつ、落ちた。