チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


「そうなの?意外」

そう言った佐倉さんは、そのまま煙草を灰皿に捨てる。
微かに昇る細い煙を見ながら、あたしは再び言葉を失った。

「亜弥可愛いから、彼氏くらいいそうなのに。」

笑って言う佐倉さん。あたしは静かに、目の前が暗くなるのを感じた。

佐倉さんの笑顔も、『可愛い』の一言も、ほんの少しも嬉しくない。

『彼氏くらいいそうなのに』

…それを、あなたが言うの?

「…何で…」
「え?」
「何でそんなこと言うの?」

佐倉さんの顔は見れなかった。俯いたまま眉間にしわを寄せる。

「あたし…あたしは、彼氏なんていらない。好きな人以外と付き合うなんて…そんなの、考えられないもん。」

佐倉さん以外と。そう言いたいのに、言えるはずもなく。
でも。

「あたしは…あたしは、佐倉さんが好きなんだよ?そんなこと…言わないでよ」

懇願するような口調に、我ながら情けなくなった。
こんなの佐倉さんを困らせるだけだ。

怖くて、佐倉さんの方を向けない。

せめて涙だけは堪えようと、両手で赤いミニワンピの裾を握りしめた。