優しい口調のまま、マモルは電話を切った。切ってからしばらくの間、あたしは耳から携帯を離せなかった。
マモルとの電話でこんなに気分が落ちたのは、初めてだ。
ようやく耳から離して携帯を閉じた時、佐倉さんの声がその耳に届く。
「よかったの?切って」
「あ、うん。全然大丈夫」
言ってから少し後悔。マモルからの電話をそんな簡単に扱いたくなんかないのに。
「でも、彼氏とかじゃないの?」
煙草の煙と佐倉さんの言葉。
あたしは思わず言葉を失った。
…彼氏?
「男の声だったからさ。内容までは聞こえなかったけど。」
「…彼氏じゃ、ないよ。そんなわけないじゃん」
「そうなんだ。」
まぁどうでもいいけど。いかにもその言葉が続きそうな口調だ。
煙草をふかす佐倉さんの横顔を見る。いつもと何ら変わらない。
「全然…彼氏とか、そんなんじゃないから。ないし…それにあたし、彼氏とか、そんなん…」
いないし。言おうとして、やめた。
じゃあ佐倉さんは?彼氏じゃなかったら、何?
佐倉さんは、どう思ってるの?



