チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


「出ないの?」

ふいに佐倉さんが呟いた。
そのままあたしから離れて、運転席に腰を落とす。

戸惑ってるあたしを横目に、「出たらいいよ」とあっさりと言う。

でも、と言おうとしたが、その前に佐倉さんが煙草に火をつけてしまったので、もうどうしようもなくなった。

眉間にしわを寄せたまま、携帯を取り出す。

「…もしもし?」
『あ、チェリ?』

優しいマモルの声。
少しだけ安心した。

『今大丈夫?』
「えっと…、ごめん、今ちょっと…」

口ごもる。正当な理由が見つからない。
好きな人といるからって言いたかった。でも佐倉さんの前で、そんなこと言えるはずもなく。
ましてや彼氏や恋人扱いなんて絶対にできない。

じゃあ、佐倉さんとあたしの関係って?

『あ…そっか。うん、わかった』

『いきなりごめんね』と言うマモルの口調で、なんとなくマモルは気付いたんじゃないかなと思った。

マモルなら気付く。マモルはそういう人だ。

「…ごめんね。また、電話するから」
『いや、俺こそごめん。じゃあ、また』