チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


電話を切った後、力が抜ける様にその場にしゃがみこんだ。

携帯を握りしめる手が汗ばむ。

…佐倉さんの声を聞いたのは、何週間ぶりだろう。

正直、誕生日に彼の声を聞くことなんて期待してなかった。

期待できないんだ。いつも、どんな時でも。

期待すると、後が辛いから。大抵うまくいかないことの方が多いし。


それに期待しない方が、予想外の幸せをもっと喜べる。

そう、今日の今みたいに。


「…やったっ」

小さく呟いて、あたしは携帯を抱き締めた。頬が自然に緩む。床に転がってバカみたいに足をバタバタさせた。

会える。佐倉さんに会える。

誕生日当日じゃないけど、でも一週間以内だったらまだ有効だよね。

佐倉さんがあたしの誕生日を覚えてるなんて思えないし、多分今日だって偶然だけど。

それでもやっぱり嬉しかった。

『会おうか』

その一言。その一言が、何よりの誕生日プレゼントだよ。