チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

座ったまま手を伸ばし、通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『亜弥?』

ドクンと、心臓が跳ねた。息がつまる。体が固まる。

「佐倉…さん?」
『今家?』

「あ、うん」と呟きながら、急いでクローゼットを開ける。
今もし会えるかと聞かれたら、すぐにでも会いに行ける様に。

『そう。今週の金曜日、あいてる?』
「え、金曜日?」

服を漁る手を思わず止めた。

『暇だったら、会おうか』

電話の向こうでカチッと音がした。多分、煙草を吸ってるんだろう。
手に持っていた服を思わず落とす。

「あ、会いたい。全然、全然あいてるっ!」

両手で携帯を握りしめてそう言うと、微かに佐倉さんが笑った気がした。
それだけで胸が締め付けられる。

『じゃあ、金曜日の夜7時。…亜弥の学校の近くのスタバで待ってて』
「え、スタバ?」
『できれば一階の、出入り口に近いとこね』

いつもはホテルで待ち合わせるのに。スタバで待ち合わせるなんて初めてだ。
戸惑いながらもあたしは、「うん、わかった」と呟く。