チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~



電話をしたら、高藤さんだけがつかまった。丁度仕事帰りで、すぐに来てくれるらしい。

あたしはさっきと同じ体制で、高藤さんを待った。

違うな。高藤さんを待ってるわけじゃない。

誰でもいい。誰か今、あたしを呼んでくれる誰かを待ってるんだ。

一時的な、殺那的な、そんな感情で構わないから。

寂しくて悲しい、そんなあたしを呼んでくれる誰かを。


道行く人をただぼんやりと、目で追った。

洋画のエンドロールの様な、見ていても見ていない、そんな感じ。

そういえば、制服以外で高藤さんと会うのは初めてだ。
いつもは佐倉さんと会う様な格好で、高藤さんと会う。

あぁ、またひとつ崩れてく。

あたしを塗り固めていた、佐倉さんへの愛が。


人混みのエンドロールの中に、高藤さんを見つけた。
役者の名前の中に、脇役だけど知っている人の名前を見つけた時みたい。

「サクラちゃん」

とってつけた様な笑顔で彼を迎えた。

あたしを呼んでくれる声。

それは本当のあたしを呼ぶ声じゃなかった。

その事に気づきながら、傷ついていないふりを続けた。