チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


…夜の街は静かだった。

本当は凄くざわついてるし、笑い声、話し声、誘う声や媚びた声など、声という声で溢れている。

でもその片隅で、膝を抱えて座っていたらよくわかる。

とても静か。

本当の声にだけ耳を傾けたら、囁く程にしか聞こえない。

皆そうだった。

まじで?それって凄いじゃん!凄くないよ~、普通だよ。ねぇ、あそこにできたショップ、今度一緒に行こうよ。彼氏連れてく?買ってもらえるかもよ。

ありきたりな会話。あたしもよくする会話。多分、無意識に、皆そんな会話を選んでる。

本当の声なんてどこにもない。

みんな既製品。使い古しの、流行語みたい。

そんな街にもきっと、愛は溢れてる。

あたしの知らないところで、知らない愛が。


悲しいな。

世界にあたしだけ、取り残されちゃったみたい。

ノーカラージャケットからのぞいた二の腕を、自分でそっと擦った。

…冷たい。

誰か、温めて。

愛してなんて、そんな贅沢言わないから。