チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


…帰ってきた宮川さんに聞くと、あっさりと「言ってなかったっけ?」と言われた。

「最終日にね、流そうと思って。ほら、何かサプライズ的なこと欲しいでしょ?それにショパンの音楽って、あたしの絵のコンセプトに合ってるんだ」

約束のベーグルをあたしに差し出して、「ショパン、聞いたことある?」と聞く宮川さん。あたしは小さく頷いた。

「なんか…切ないなぁって思いました」

そう言うあたしを見て、宮川さんは優しく微笑んだ。

「そうだね。でも…あたしの中では、優しい曲なんだ」

ドクンと心臓が鳴った。息がつまりそうになる。

「優しいんだよね。ショパンは」


…あぁ、"サクラ"さんだ。

宮川さんは、やっぱり"サクラ"さんなんだ。

偶然だとか運命だとか、あたしにはそんなことわからない。

でもあたしの目の前には"サクラ"さんがいて、あたしの携帯の先にはマモルがいる。それは、紛れもない事実で。

何故だか泣きたくなった。だってあたしにはどうしようもできない。
どうしようもできない。

「…宮川さんの絵、優しいです」

そう呟くあたしに、宮川さんは綺麗な笑顔で言った。

「ありがとう。あたしにとってそれは、最高の誉め言葉よ」