チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

あたしは宮川さんが好きだ。
春哉さんも素敵だと思う。

誰が見てもお似合いの二人には、やっぱりうまくいって欲しいと思う。

だからこそあたしは、宮川さんが"サクラ"さんじゃないことを望んでいた。

だってもし本当に宮川さんが"サクラ"さんだったら?

そうだったら、マモルはどうなるの?

宮川さんが好きだった。
春哉さんが好きだった。

でもマモルが傷付くことだけは、どうしても嫌だった。

…どうかあたしの勘違いであって欲しい。

軽く溜め息をついて、手持ちぶさたな手元にパンフレットを引き寄せる。

ふと横を見ると、受付の下に紙袋があるのが見えた。

何だろう。そっとそれを引き出す。

中に入っていたのは、少し古いCDプレイヤーと、一枚のCDだった。

あたしはそのCDを取り出す。

そしてゆっくりと、これは運命の悪戯なのかなと柄にもないことを思った。

目を閉じる。暗闇の中、小さく思う。

…みんなが幸せになんて、そんなの綺麗事でしかないんだ。

目を開けて、手に持ったショパンのCDをそっと元に戻した。