「…宮川さん」
なるべく戸惑っていないふりをしながら、あたしはパンフレットを宮川さんに差し出す。
「宮川さんの名前…これ、何て読むんですか?」
あぁなんだ、そんなこと。宮川さんは、いつもの笑顔で言った。あの、人懐っこい笑顔で。
「サクラよ。宮川咲羅。読みにくいでしょ」
さっき感じたひっかかるもの。それがするりと溶けて、見事にリンクしていった。
「サクラ…さん…」
…"サクラ"さんだ。
宮川さんは、あの"サクラ"さんなんだ。
こんな偶然ってあるの?
冷静に考えたらサクラなんてそんなに珍しい名前じゃないし、電話番号と名前だけで簡単に判断してしまうのもどうかと思う。
でも、直感でそう感じたのだ。
彼女は、"サクラ"さん。
マモルの、好きな人。
「あの…っ」
切羽詰まった様なあたしの声に、不思議そうに彼女は振り向いた。
「ん?」
無邪気な笑顔。
…あたしは、何を言おうとしてるの?
マモルの事を言って、それでどうなるの?
そもそもあたしは、二人の事をちゃんと知らない。
「…や…。可愛い名前ですね」
ありがとうと笑顔で言う宮川さん。
あたしは曖昧な笑みを返すしかなかった。



