チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


「はい、ありがとう」
「あ、いえ」

宮川さんの一言が、あたしの思考を遮る。

あたしの番号は後で送っとくねと言い、携帯を無造作にポッケに突っ込んだ。

「よし、じゃあもうひとふんばりかなっ」
「かなり出来てきましたね」
「うん。後はもう細々した準備だけ」

「あの段ボールに入ってるパンフ、受付に置いてくれる?」と宮川さんは指示する。

あたしは「はい」と返事をし、かなり綺麗になった床に置いてある段ボールに向かって行った。

パンフレットと言っても形だけで、殆んどチラシと変わらない。宮川さん曰く、これが予算ギリギリらしい。

あたしが段ボールを開けている後ろで、宮川さんは絵の位置の最終チェックを始めていた。

よっとパンフレットの束を持ち上げて、受付の長机の上に置く。

縛っていた紐をほどきながら、ふとそれが目についた。


…瞬間、体が固まる。

ドクンと一回、大きく心臓が跳ねた。

「亜弥ちゃん?」

明らかに固まってしまったあたしに、宮川さんは眉を少し上げた顔を向けた。

「どうした?」