チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~


……………

「そうよ。春哉はあたしのことが好きなの」

思わず手に持った工具を落としそうになった。
びっくりして目を丸くするあたしを、宮川さんは「何?」と見つめる。

「いえ…」

工具をゆっくり地べたに下ろしながら、かまかけてちょっと聞き出すつもりだったのにと思う。

「なぁに?春哉何か言ってた?」
「いえ、あたしが勝手にそうなのかなぁ…って」
「なかなかの洞察力ね」

ふふっと笑いながら、壁に絵を掛けていく。宮川さんの絵は、絵そのものが凄いというより、色が印象的だった。

優しい、穏やかな色しか使っていない気がする。

「もう何度か告白されてるの。まぁ、その度に断ってるんだけどね」
「何でですか?」

親切でかっこよくて、申し分のない人だと思うのに。

宮川さんは少し肩をすくめて、「なんでだろうね」とはぐらかした。

「あ、そういえば、あたし亜弥ちゃんの携帯聞いてなかったよね?」

明らかに話を反らした気がしたが、触れられたくないことなのかなと思い気付かないふりをする。

「あ、そういえば…」
「まぁ今更って感じもするけどね。一応聞いておいていい?」