それはそれとして。

 こうして珈琲に対するカルチャーショックを受けた俺は、これはもう珈琲というものをこころから愛する他ないと思いいたる。

 宿命というやつすら感じたね。

 うん。

 その後、様々な喫茶店を回って色々な味に出逢っていった俺が「自分もこんな珈琲を淹れたい」と思うようになるまでさほどの時間は必要としなかった。

 当たり前のように。

 そうだな、赤ん坊が言葉を覚えていくようでもあるし、立ち上がることを覚えて、さらには歩こうとすることと同じ。

 俺にとってそれはとても自然な、当然な流れでしかない。

 とはいえ机上で勉強するのは苦手ではないけれどのめり込むにはいささか苦痛を感じてしまいそうだった俺は、思い立ったが吉日と手早く学校にアルバイトの許可を得た。

 しかしここで、はたと立ち止まる。

 どこの店で勉強をするか。

 そのことについてだ。

 行動範囲内で回った喫茶店では初めて感動を与えてくれた最初の店が結局のところ一番自分ではうまかった。

 どうしてもあれほどの衝撃を与えてくる店がみつからなかったのだ。

 そうなるとそこで働くのが一番いいようにも思う。