心やさしい俺は愛しの姫君がそんな暴挙に出る前になんとしても立ち上がらなければならなかった。

 “山場”を迎えた勇者ってのはこんな感じなんだろうな、うん。

「なんだ、いるじゃない」

 くらりとする身体をなんとか壁で支えて立つ俺にあっけらかんとしていうまゆみ。

「そりゃまぁ病床の身だからな……」

 開け放ったドアの外から軽く風が吹き込み、つまっているはずの鼻がやわらかな彼女の香りを捕らえる。

 部屋をずっと閉め切っていたせいかやけにそれは清涼に感じられた。

 どうして女性の香りってのはこんなに男のこころをきゅん、とさせるんだろう。

 そのやわらかく、どこか甘い香りのせいか、はたまた具合が悪化しているせいかはわからないが軽いめまいに見舞われる。

 しかしそんな手放しがたい時間は長くは続かないわけで。 

「風邪ひいたんですって?
 ダメじゃない、起き上がっちゃ。さ、おふとんにもどってもどって」

 ばっさりと余韻をぶったぎって両手で奥へと手を払うまゆみ。

 いや、起き上がらせたのはキミだから。