いくつもの空気の壁を突き破りながら俺は愛車を走らせた。

 坂を下り、まばらな人波をすり抜けて、ぎしりとペダルをきしませながら。

 住宅街を抜けてまた次の住宅街へといくつも繰り返しながら。


──俺は愛車を走らせた。


 どこからともなく香る若草とゆうげのにおいも、絶えることなくはき出される息の前に弾かれるようにして後ろに流されていく。

 群青にはまだ早い空はそれでも今日という日を惜しみ始めて目を細めるようにして細く細く雲を譜面のように伸ばして天蓋を拡げ始める。

 それは太陽を背にした俺からすると遥か向こうから徐々に夜の影を吸い込み始めているために進めども進めども景色が遠くに離れていく感覚を与えた。

 けれどもそれがかえって頭を整理させる時間稼ぎのようにも感じられてちょうど良い。

 おかげで俺はときおり大きく息を吸い込んでは頭の中でごちゃごちゃになっていたものをうまく型にはめるために並べていくことができた。

 それはもう本当に清々しく。

 と同時に、あまりの自分の愚かさ加減に苦笑いを浮かべる。