「それじゃぁ」

 今度こそその場を後にしようと、愛車にまたが──

「あの、草太さん!」

「はい?」

──る前にもう一度、最後にお母様に呼び止められた。

「さっきは、お節介……だったかしら?」

 申し訳なさそうに少し首を傾げて眉を寄せるお母様。

 俺は、はっきりとこういった。

「いえ。そんなことはないです。むしろ──」

「むしろ?」

「大事なことに気付かされました」

 本当に。

 最初にここにきたときよりも俺の胸の内はすっきりとしていて、早く早くペダルに力を込めたくて仕方がなかった。

「そう?」

「はい!」

「じゃぁ、あのコのこと、よろしくお願いしてもいいかしら?」

「はい! 任せて下さい!」

 びしっ、とお母様に向かって敬礼をする俺。

 するとお母様は「ん~」と少し不満げな顔をすると軽く頭を振り、

「こういうとき、草太さんのバイト先ではどうしているのかしら?」

 人妻にしておくには非常に惜しいくらいの愛らしさで片目をつむってちっちっ、と人差し指を振った。

 あいつめ。

 なにをどこまで家で話してるんだか。

 ま、我ながら気に入ってはいるんだけど、ね。



「ウィ、マダム──」


 片手を後ろ手に、片手を胸に当てて恭しく一礼をした俺は、間違いなく今度こそ愛車にまたがり、その場を後にするのだった。