と、そのとき、

「こら、おまえ。勘違いしてるんじゃないだろうな?」

 マスターが俺の頭を小突くようにいった。

「なにが……ですか?」

 勘違いもなにも、すべてを俺は察しているつもりだ。

 それとも直接クビをいいわたすというのだろうか。

 まぁ、形式的なもんだろうけれどこういうことはきちんとお互いに意思の交換をするのが筋ってもんなのかもな。

 俺は意を決するようにふっ、と息をはいてマスターの方に向き直る。

 長かったような、短かったような。

 様々な想いが胸の内を渦巻き、不覚にも泣きそうになる。

 この店で初めて珈琲を淹れさせてもらえたのは忘れもしない、おととしの7月7日。

 そのとき俺はこういったのさ。

「え? 1年に1回しか淹れさせてもらえないんですか?」

 ってな。

「んなわけがあるか」

 というツッコミが即返ってきたのはいうまでもない。

 それから、新メニュー考案のために毎日遅くまで店で試行錯誤したこともあったな。

 店で特に料理のできる人間を集めての会議だったけれども、不思議だったのはその中にまゆみもいたことだったなぁ。

 最初はあいつが新メニューの評価役だなんて知らなかったもんだからマスターにこういったっけな。

「店をつぶす気ですかっ!?」

 いやぁ、まゆみを指差しながらいったもんだから、その後のフォローが大変ったらなかったよ。