俺は俺の動揺を隠せないでいた。

 こころの中でおどけていようと言葉遊びをしていようと、膝の力が抜けそうになることに気付いた瞬間にそれがまるで無意味なことだと思い知らされる。

 何度も、繰り返し、けして消え入ることなくリフレインするひとこと。



「帰れ」



 つまり“店に立つ資格がない”といわれたのと同意であり、それはこの店で珈琲を淹れることが自分を形作るもっとも重要な要素と考えている俺にとって


──絶望以外の何物でも、ない。


 この店でカフェ・オレを淹れ、運ぶことはそれほど重大な仕事であり、これは等価の責任の大きさ。

 そのことを誰よりも俺は理解していた。

 視界が、にじむ。

 のどもとの奥から熱いかたまりが抑えても抑えても口から突き出ようとしてくる。

 俺はもう、拳を強くにぎり爪をわざと食い込ませてそれを必死にこらえながら休憩室にむかうしかなかった。