それがあるから、覚悟を持った人間が真摯(しんし)に仕事をこなす上で起こしてしまったミスであればマスターは怒りなどしない。

 本人は自分の出来ることを精一杯しているだけで、それでも出来ないとすればそれは自分の相手に対する力の量り間違い、自身の責任だと考えているからだ。

 もちろん、初めっから与えられた仕事を完璧にこなせる人間なんていやしない。

 要は早い段階で“ものにできる”力があるかどうかの見極めだ。

 まゆみの場合は確かにかなり時間がかかったけれども、ね。

 しかし彼女にはそれを補ってあまりある“愛嬌”がある。

 実際にまゆみが店にやってきてから客からの評判は上がった。

 いわゆる『看板娘』ってやつだな。

 あ、ことわっておくが。

 他の女性陣がいないわけじゃぁないぞ?

 ただどちらかというと“おねぇさん”という印象で“娘”とは……う、うぉっほん。



 それはそれとして、だ。

 ともかく──今回のこのミスは、明らかに俺の仕事への不真面目な姿勢から起きたものに他ならない。

 だからマスターは「帰れ」といったのだ。