恥ずかしいのか悔しいのか情けないのか腹立たしいのか、いろんな感情が激しい渦となって俺の中で暴れまわっている。

 あまりにそれぞれが荒々し過ぎて思考がまとまらずにただただ呆然とする俺は、マスターが戻ってきても指先一本はおろか震えることすら出来ずにいた。

「……草太」

 わずかな沈黙の後、マスターの声が俺の頭の上に降りてくる。

 それはけして重いものでは、ない。

 怒気をはらむわけでも、ない。

 ただひたすらに抑揚をなくした声で、そこからはなんの感情も読み取れない。

 それだけに、恐ろしい。

 表情からなにかを読み取ることができるかもしれなかったけれども、そんな勇気があればきっと富士山を頂上から全速力でかけ下りることができるだろうさ。

 あいにくとそこまで俺は心臓に針金は生えちゃいない。

 わりと強靭な心臓の持ち主だという自負はあるけれども、厚顔無恥(こうがんむち)ってわけじゃぁないんだ。

 この失態をひっさげて、どんな面をマスターに向けろというのか。

 いいわけなんていえるはずも、ない。