「お待たせ致しました」

「ふ、ぅわぁ……」

「きれい……」

 黄昏時の空に天使が舞っているかのような、幻想的な白の輪舞(ロンド)に頬を紅潮させながらうっとりとため息をつく客。

 クピトの矢に射抜かれたのか、客はしばらくの間その神秘的な液柱に見惚れ、ため息をグラスに吹きかけてはまた天使のスカートを揺らした。

 そのなんたる美しさ。

 女性を“おとす”ならば、幾億もの口説き文句をならべ立てるよりも、この一杯さえ淹れられるようになればいい。

 なんども目にしている俺ですら、仕事中でなければこの客たちと同じようにため息の花をテーブルからこぼれるほど咲かせてしまうのだから。

 しかしいまだ持って、ベストな状況と状態で淹れたとしても、俺にはこれほどの感動を与えることなんてできやしない。

 いや、そんなことを考えるなんておこがましいにもほどがある。今の俺には。

 そもそもこの素晴らしいカフェ・オレはマスターからのなによりもの叱責に他ならないのだから。